こぼれ話

EPISODE こぼれ話相模原


秘密の図書館活用法

大学院 芸術文化専攻 花奈

 

私は排泄をするのが好きだ。この自覚を得たのは、私が首も回らないほど忙しく、毎日規則正しく健康を損なわない程度に、無茶な生活を送っていた時のことである。かの水木しげる氏は、最も多忙だった時期、庭の柿の木を数秒眺めることが楽しみだったそうだが、私がその生活の中で唯一楽しみなのがトイレに行くことだった。排泄だけが、義務感を伴わず、合法的につかの間のドロップアウトが出来る行為だったのだ。そのトイレは狭い・汚い・臭いの三拍子が揃ったbusyかつpublicな場所だったが、それでもそこは周囲から隔絶されたユートピアだった……。愛好家の自覚を得た私は新しい環境が与えられるたびどこが一番快適であるかを探し歩くようになった。快適というと、綺麗とか広くて清潔といった場所が浮かぶかもしれないが私の考える快適な便所はそれとは少し違う。あくまで目的に対して〝遂行しやすさ〟を提供してくれる空間であることが肝要なのだ。具体例を挙げれば、そう、女子美の図書館のトイレである。

 

 「青木まりこ現象」をご存知だろうか。書店や図書館など本の密集している場所で便意を感じるという現象のことである。ある雑誌の投書欄に青木まりこという読者の「理由は不明だが、書店に行くたびにもよおすようになった」という内容のものが掲載され、それが多くの共感と話題を呼び、都市伝説となった。その原因に関しては本に対するトラウマ説、インクの成分説、活字による脳への刺激説など様々な憶測が飛び交っているが、現在もなお解明されていない。興味を持たれた方は是非wikipediaの「青木まりこ現象」のページへ飛んでいただきたい。

 

 我が大学の中でも図書館のトイレを最も快適だと思う理由はこの青木まりこ現象のためだけではない。まず利用者が圧倒的に少ないことが挙げられる。他人に音を聞かれてしまうことを意識するとなかなかできない人は多い。そして利用者が少なければその分臭いもあまりない。そしてもう一つが適度に古いということだ。あまりにも綺麗な場所、例えば10号館のようなところでは萎縮してしまう人もいるだろう。だが図書館のトイレではそんな心配はない。人の出入りも無く、適度に古くて気取ったところもない、薄暗い個室で静かに事を運ぶことが出来るのだ。

 

 今この文章を読んでいる人の中に、こんな人がいるのではないだろうか。大学に入って一人暮らしを始めたものの、自炊はだんだんしなくなり、コンビニの炭水化物にまみれる生活。いつしか流れは滞り始め、これはまずいと思って買った野菜ジュースをもってしてもなかなかどうして解消できない。その気になったとしても、いざ座ると緊張してしまって遂行できない。そんな悩みを胸に秘めたあなたにこそ、この秘密の図書館活用法をオススメしたい。図書館なんて別に緊張しなくていいのだ。好きな時に来て、好きな本や画集を気の向くままに手に取ればいい。ちょうど夢中になり始めたころにそれが訪れても、あなたの興味は図書に捕らわれたまま、そのまますっと用を足して、またページを開く頃にはきっと、何に悩まされていたのか忘れていることだろう。

 

2016年11月14日