NEWS 図書館からのお知らせ共 通


『女子美術大学研究紀要』第53号原稿投稿について

 投稿申込: 2022年6月6日(月)~6月20日(月)17:00 厳守 

 提出場所 : 各校地の図書館事務室 (土日祝の受付は原則致しません)

 ※投稿申込書は最新版を使用してください。

 ※学内研究助成申請の段階で成果報告の方法を「紀要」と選択した方は、紀要の「投稿申込書」を提出、原稿の投稿が必要です。

 ・『女子美術大学研究紀要』第53号 原稿募集要項 ⇒印刷用PDF文書 

 ・『女子美術大学研究紀要』第53号 投稿申込書    ⇒印刷用PDF文書

 投稿資格:本学の教職員及び大学院生、並びに紀要編集部会が認めた者を投稿資格とし、

 以下の要件を全て満たしている事を前提とする。

 ・ 著作権や知的財産権に係わる法令及び本学規程を遵守していること

 ・ 法令上、社会通念上及び情報セキュリティ上、問題が生じないものであること

 

原稿提出について (※投稿申込済の方のみ)

 提出期間:2022年9月5日(月)~9月15日(木)17:00 締切厳守  

 提出場所 : 各校地の図書館 事務室 (土日祝の受付は致しません)

      ※メール不可 【郵送希望】の場合、ご連絡ください。

      郵送先:相模原図書館内 紀要編集部会 宛

 

紀要編集部会

2022年5月16日

NEW BOOKS 新着情報杉 並


5/13 新着図書

【書評に取り上げられた本】

 

『世界を一枚の紙の上に:歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生』
19世紀初頭、産業革命や市民革命の中、
世界を科学的・視覚的に記述する試みが始まります。
実際に目にすることのできない「世界」という巨大な存在を、
ヴィジュアライズすることで発展してきた人類、
そしてグラフィズムの歴史を辿る1冊。
朝日新聞(2022/1/8)に書評掲載あり。

 

『サブカルチャーを消費する:
20世紀日本における漫画・アニメの歴史社会学:1920-2021
』
大衆(とりわけ年少者)をターゲットとして
大量に生産・消費されてきた漫画・アニメを、
社会を反映するものと捉え、
「消費」という社会的行為を分析します。
われわれにとって身近なこれらのメディアを、
映画・戦争・性差・都市などの観点から考察することで、
日本の独特な消費社会の様相が見えてきます。
産経新聞(2022/1/16)に書評掲載あり。

 

『日本の鬼図鑑』
反社会的で反道徳的…人ならざるもの「鬼」。
現代においてはわかりやすい
悪の象徴として定着している鬼ですが、
実はそれだけでは括りきれないほど多様な存在でした。
日本画を中心とした資料を参照しながら、鬼の系譜を辿ります。
産経新聞(2022/2/6)に書評掲載あり。

 

『世界を変えた100のポスター 上』
『世界を変えた100のポスター 下』
今や街じゅうで目にするポスターは、
ヴィジュアルで情報を伝達するための有効な手段として、
古くから活躍してきました。
本書では、指名手配書からオリンピックのポスターまで、
時代を象徴する傑作100点を紹介しながら、
世界とグラフィック・デザインの歴史を解説します。
上巻・下巻ともに、東京新聞(2022/2/20)に書評掲載あり。

 

『かざる日本』
日本の美といえば、引き算による
余白や奥ゆかしさを語られがちですが、
「かざり」を足して掛けて盛りこまれた
華やかな一面もあります。
本書は、美術品や工芸品のみならず、食・香・音など、
日本の人・物・空間を彩ってきたものたちを紹介します。
毎日新聞(2022/3/19)に書評掲載あり。

 

 

ほか全25冊、ぜひご利用ください。

 

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2022年5月13日

TEACHERS' SELECTION 先生の本棚から


摘読録ーーMy favorite words 第40回

女子美術大学 名誉教授 北澤憲昭

 

おまえとこの世の戦いにおいては、この世に肩入れをせよ。

――フランツ・カフカ/池内紀訳「アフォリズム集成」(1918)

 

「この世」とは人間が生きる場というほどの意味である。場というのは、たんなる物理的空間ではない。そこでは、人と人、人と物、人と事、物と物、事と事とが、人間のさまざまな行為を介してかかわりあい、それによって複雑な意味連関を形成している。そういう入り組んだ生の場、それが「この世」であり、人間は、そこを離れては生きていけない。というより、人間でありつづけることができない。マルティン・ハイデガーは『存在と時間』のなかで、こうした人間の在り方を「世界-内-存在」と呼んだ。カフカの死と相前後する時期のことである。

 

カフカが書き残したこの逆説は、人間と世界のこうしたかかわりを踏まえるならば、比較的たやすく読み解くことができる。自分が戦う当の相手である世界に自分自身が取り込まれているのだから、戦い続ける自分であるためには、けっきょくのところ世界に味方するほかないという理屈である。

 

ただし、この理解は、あまりにも形式的すぎる。ここで目を凝らすべきなのは、こうした窮余の事態そのものだろう。世界に生を託すほかない存在が、その世界に異和をかもすところから、この不条理な事態は生じているのだ。はじめは、ほんの小さな傷のようなものだった異和が罅となり裂け目となって、世界との確執が深まり、拡がってゆく。疎隔感や息苦しさにふと気づくところから始まり、やがて堪えがたい痛苦の感覚が襲ってくるのである。

 

この痛みは意識の切っ先によってもたらされる。意識は、つねに何ものかへの意識であり、その意識の尖端が世界に差し向けられるとき疎隔感が生まれ、その疎隔感が世界と自己のかかわりの息苦しさに気づかせるのだ。しかも、世界と自己の裂け目は、「世界-内-存在」としての自己を介して世界にも――たとえば近親者のあいだに――痛みをもたらさずにはいない。

 

だが、世界との戦いにおいて世界に味方するというのは、「戦い」をやめることではない。世界を傷つけるのをやめるということではない。人間が意識をもつかぎり、それは不可能だ。「この世に肩入れをせよ」というのは、意識がいやおうなく世界に残す傷を、そのつど癒すということなのだ。

 

傷は致命傷でないかぎり治癒してゆく。積極的な治療が試みられ、自己治癒力もはたらく。そうしなければ世界に膿がまわりかねないし、自己が肉片のように世界から切り捨てられることにもなりかねない。

 

このようにして、ひとはいやおうなく世界に「肩入れ」することになるのだが、しかし、そこには傷痕がのこる。線維組織が盛り上がった瘢痕[はんこん]が出現する。傷の治癒によって世界は傷痕を印づけられ、それによってわずかながら姿を変える。わずかとはいえ傷は「この世」に生まれ死んでいった人間たちの意識の痕跡だから、その数ははかりしれない。世界は数えきれない傷痕と未だ癒えざる無数の傷とに覆われている。

 

このアフォリズムは手稿を見ると全文が鉛筆で抹消されているという。カフカは、逆説的なやり方で傷を癒そうとしたのにちがいない。

 

 

2022年5月12日

NEWS 図書館からのお知らせ共 通


【2022年度】「教育実習貸出」について

教育実習に行かれる皆さまへ

 

教育実習に必要な図書の貸出が、実習期間に応じて2週間以上借りられる「教育実習貸出」 という貸出サービスを行なっています。

 

1.サービス対象

教育実習生(卒業年次生) ※延滞図書がある場合貸出不可

 

2.貸出方法

①教育実習で利用したい資料を持って、カウンターにお越しください。

②カウンターで 「教育実習貸出希望」 と申告してください。

 

※郵送貸出サービスでもご利用いただけます。

メール申込時に「教育実習貸出希望」と「実習期間」を記載してください。

 

 

3.教育実習貸出できる資料と冊数/期間

図書・「就職留学旅行関連」ラベルが貼付された図書で、教育実習に必要な資料

10冊/教育実習開始の2週間前 ~ 教育実習終了の3日後まで

 

 

4.注意点

・普通貸出と併用できますが、貸出期間が異なるため、返却期限に注意してください。

・普通貸出は延長が可能ですが、教育実習貸出は期限延長は出来ません。(便宜を図り通常より長い貸出になっているため)

・返却日は実習地により考慮しますので、貸出の際にご相談ください。

 

是非ご活用下さい!

 

2022年5月7日

NEW BOOKS 新着情報相模原


5/2 新着図書

【女子美関係者の本】


『ちゃいろときいろ』
彦坂 有紀, もりと いずみ 著/彦坂木版工房
「茶色と黄色は理想の美味しさを表現する上で欠かせない色」と語る木版画家の彦坂有紀さん。描く対象は食べてみて、魅力を伝えられるように工夫しているそう。美味しそうに描くコツも教えてくれます。

 

 

【図書館員の注目本】

 

『日本画のゆくえ~継承と断絶・模倣と創造』
橋本 慎司 編集/栃木県立美術館
気鋭の日本画家11人の作品をとおして、戦後70年近く経過した「日本画」の現状と今後について考えます。また、「栃木のイメージ」の絵画も併せてお楽しみください!

 

『東京キャラバン』
東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京
「東京2020」へ向けて、全国各地の文化や伝統の担い手たちと新しい表現を生み出してきた「東京キャラバン」。2020年を超えても“目の前にある文化=ライブの面白さ”は続いていきます。

 

『ビジュツカンノススメ アートを楽しむ4つのヒント』
工藤 香澄 編集・執筆/横須賀美術館
洋画家・朝井閑右衛門の横須賀時代のアトリエのひみつや、日本画、油彩など現代作家の制作方法をご紹介。「美術館に行く面白さ」に気づかせてくれる一冊です。

 

『画鬼 暁斎読本』
河鍋 楠美, 桧山 勝典, 河鍋暁斎記念美術館 編 /有限会社翠企画
歌川国芳の写生を第一とした指導方法を生涯絵画修行の柱としていた“画鬼”暁斎。10歳で狩野派に再入門し、後に狩野派再興に尽力しました。暁斎の入門書としてぜひ。

 

『手わざ-琉球王国の文化-』
沖縄県立博物館・美術館
琉球王国文化遺産の復元模造品の製作工程がわかる一冊。染織分野の「苧麻桃色地経緯絣衣装」のオリジナルは女子美に所蔵されています。

 

他全50冊

 

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2022年5月2日

TEACHERS' SELECTION 先生の本棚から


摘読録ーーMy favorite words 第39回

女子美術大学 名誉教授 北澤憲昭

 

元来国と国とは辞令はいくら八釜[やかま]しくつても、徳義心はそんなにありやしません。詐欺をやる、誤魔化しをやる、ペテンに掛ける、滅茶苦茶なものであります。だから国家を標準とする以上、国家を一団と見る以上、余程低級な道徳に甘んじて平気でゐなければならないのに、個人主義の基礎から考へると、それが大変高くなつて来るのですから考へなければなりません。

――夏目漱石「私の個人主義」(1914)

 

いまや日常と化したウクライナ戦争の戦況報道は、侵略者による容赦なき破壊と殺戮のテロリズムを朝から晩まで飽くことなく繰り返し伝えている。戦場のありさまを捉えた生々しい映像は視聴者の「道徳」的感情をゆさぶり、記事やアナウンスは「徳義心」を刺激してやまない。たとえば、マリウポリの戦災で死んだ人びとの遺骸が黒い納体袋に収められ、親族に見送られることもなく、共同墓地の塹壕のような穴に次々と投げ込まれてゆくさまを目にするとき強い情動に襲われずにはいない。それにつれて「自由」「民主主義」「人権」あるいは「主権」といった啓蒙主義の置き土産が情動の色合いを帯びて喚起される。

 

ロシアが軍事介入したチェチェン紛争やシリア内戦でも同様の蛮行があったことは知られている。また、焦土と化したマリウポリの光景は、ドイツ空軍によるゲルニカ爆撃、日本軍の重慶爆撃、アメリカ軍による東京大空襲、NATOのコソボ爆撃へと連想をさそわずにはいない。「低級な道徳」にもとづく国家の「無茶苦茶」は今に始まったことではない。歴史にその例はいくらでも見いだされる。にもかかわらず、ウクライナ戦争における悲惨は、それらの先例を差し置いて特段に強い情動を誘う。これは、たんに現在の出来事だからというだけのことではない。おそらくSNSによるところがきわめて大きい。

 

SNSを介して、戦場からリアルタイムで送り届けられる動画は、揺れ動くフレームのなかに暴力性と身体性とをはらんで情動とも道徳意識ともつかぬ想いを鋭く喚起する。SNSはまた、ジャーナリストたちが命がけで取材した情報をシェアすることで、その影響力を増幅している。映像のリアリティは、フェイクニュースやプロパガンダによって至るところで綻びを生じているものの、それじたいが戦争のリアリティとして訴求力をもつ。

 

戦争は侵略者たちの道徳意識をも屈折したかたちで喚び起こしている。彼らは道徳意識と無縁の構えをとっているわけではない。みずからへの非難をかわすための口実あるいはカモフラージュとして道徳を利用している。病院や民間人の避難所に対する攻撃を指弾する声々に対して、それがどうしたと開き直るのではなく、攻撃しているのは偽装された軍事拠点であって、民間人を標的にしてはいないと繰り返し主張している。つまり、みずからの行為の道徳的正当性を言い立てている。

 

☆

 

厄介なのは、啓蒙思想に端を発する近代の価値観を蹂躙するロシアの行動が、冷戦体制崩壊後の世界を駆動してきた新自由主義[ネオリベラリズム]の似姿のように見えることだ。たとえば徴兵された若者たちを消耗品のように戦地に送り込むロシア軍の発想は、人間を「資源」として扱ってきた新自由主義の発想と異ならない。ロシアの若い兵士たちは日本の非正規労働者たちの姿に重なって見える。そこには非人道性という共通点が見いだされる。

 

いわゆる「西側」諸国の言論は、しばしば、この戦争について自由民主主義と専制主義の対決というお決まりの構図をもちだすが、新自由主義の蜜の味を知った口がそれについて語るとき寒々とした滑稽さを免れない。民主主義が専制政治を生み出すアイロニーはさておき、新自由主義の支配するところに民主主義は成り立ち難いからだ。

 

人間社会を市場に委ねる新自由主義は、「自由」の焦点を市場経済に絞り込むことで啓蒙思想に由来する理念的豊かさを削ぎ落し、経済格差によって中間層が衰亡するに任せて「平等」の理念を骨抜きにし、非正規労働者の過酷な生が物語るように「人権」をないがしろにしてきた。産学連携を既定のこととして高額な研究費で大学を釣りあげようとする「国際卓越研究大学法案」にみられるような学術研究への市場原理の導入は、「理性」という啓蒙主義の根幹への侵害にほかならない。

 

そのうえ、新自由主義は新保守主義と相携えることでカビの生えた道徳観や民族意識の復活を促してきた。これを経済格差による社会の分断に対する備えとみることが可能だとしても、国家の介入を可能な限り抑制したい新自由主義の構えからすれば警戒すべき発想であるにちがいない。とはいえ、ナショナリズムや道徳にかんする権力の介入は、啓蒙主義への背反という点で新自由主義と軌を一にしている。人びとの内心への介入は「寛容」という啓蒙主義の掲げた美徳の否定にほかならないからだ。このような状況において自由な意志にもとづく民主主義が成り立つ余地を見出すのは難しい。新自由主義は「民主主義」の危機を醸成してきたのである。

 

☆

 

新自由主義が推し進めるグローバリゼーションのもとにあって、市場原理主義の非人道性に対抗する思想を練り上げ、鍛え上げる努力が為されなかったわけではない。しかし、それを社会的に定着させることができぬままに、今日に至った感を拭い難い。グローバリゼーションと足並みをそろえたインターネットの拡がりは、近代を脱却する動きを急激に加速したものの、啓蒙主義的理想に取って代わる脱近代の思想が、あらたな価値観や道徳意識を社会に定着させえたとはいいがたい。日本社会をかえりみれば、それに取って代わるべき近代の価値観や道徳意識が社会的に定着していたかどうかさえも疑わしい。

 

たとえば、このたびの戦争は生存権、自由権、幸福追求権など「自然権」と称される諸権利を、あらためて思いおこさせる契機となったが、わたしたちは、それらの権利を、また、それらを支える思想や道徳観念を、自明のこととして美辞麗句のなかに封印してきたのではなかったろうか。それらの権利の淵源について、あるいはその正当性について――「義務の首位性」(V.ジャンケレヴィッチ)という想念に至り着くほどに――深く思いをめぐらす思想的営為が、いったいどれほどあったろうか。人間の価値が資源価値として量られ、芸術的価値さえも貨幣価値で量られる時代のなかでこそ、それが問い直されてしかるべきであったと思われるのだが、その日月をわたしたちは、はたしてどのように過ごしてきただろうか。高踏的な理論は別として、なにげない日常のことばで――ということは、つまり美辞麗句の封印を解くようにして――このことについて沈思することが、いったいどれほどあったろうか。お定まりの批判は別として、状況の痛点を衝くリアルなことばを、わたしたちは有しているだろうか。みずからを省みて忸怩たる思いを禁じ得ない。

 

ウクライナ戦争が、あらためて突きつけて来る戦争の野蛮と卑劣、それとの対比において道徳主体としての自分自身を省みること、つまりは戦争を自分自身の問題として捉え返すこと。続々と送り届けられる彼の地にまつわる情報に接する日々にあって、漱石のこのことばは、そう促しているように読める。国家の「低級な道徳」に対して、お前の道徳は果たして高い水位を保ちえているか、と。蛮行を「最も強いことばで非難する」のだとして、その「ことば」とは――憲法9 条を踏まえたものであることは当然として――いったいどのようなものでありうるのだろうか、と。

 

この問いかけは切実だ。核戦争にもつながりかねない戦況が、事柄を自己の問題として捉える切実さを、SNSのリアルな動画と相俟って強化している。

 

☆

 

ロシアと、それを非難する西側諸国の鏡像的相似性は当然のことと思われないでもない。そもそも、1991年にソヴィエト連邦が解体されたのち、ロシアもまた新自由主義[ネオリベラリズム]が駆り立てるグローバリゼーションの動きに呑み込まれて今日に至っているのだ。人権や人道を踏みにじっていないと侵略者が抗弁するのは、グローバリゼーションにおける経済ネットワークから疎外されることを怖れるからだろう。

 

だが、事柄は、もうすこし複雑な様相を帯びている。

 

1990年代にアメリカ主導のグローバリゼーションによって憂き目をみたロシアは、2000年代に入るとプーチン政権が国家による市場への介入を強めることで活気立ち、それと並行して権威主義的な政治へと急速に傾いていった。これは、市場への政治の介入を嫌い、「小さな政府」を標榜する新自由主義に対抗する姿勢にほかならない。しかも、それがグローバリゼーションの経済ネットワークの内部での動きであることが、さきにみたような厄介な状況を形成したのである。

 

とはいえ、西側諸国においても、2000年代に入ると、リーマン・ショックを契機として新自由主義の市場原理主義に対する不信がひろがりをみせ、政府による市場への介入が行われるようになる。また、これと相前後してポピュリズムと権威主義が競り合うようにして台頭してくるのだが、そうした動きのさなかで到来したのが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックだった。市場原理では抑えようのないパンデミックは、「小さな政府」を標榜する新自由主義の脆弱性を決定的なかたちで暴き出し、「大きな政府」が――あるいは政治の介入が――翹望されることとなった。地球温暖化対策という国際問題も、その動きを加速した。

 

こうして急場しのぎに政治の発動が要請されることになったわけだが、「小さな政府」に甘んじてきた政治が、あたふたと試行錯誤を繰り返しているあいだに、状況の虚を衝くようにして、このたびの戦争が始まったのだった。

 

ただし、事柄は自由資本主義か国家資本主義か自由民主制か権威主義体制かといった体制的次元にとどまるものではない。また、単純な善悪二項対立で済む事柄でもない。

 

☆

 

グローバリズムとロシアの関係は、ヨーロッパをモデルとする近代化とスラブ的なものの確執を抱え込んできたロシア近代の繰り返しのようでもある。ナポレオンのフランスと、ナチスドイツに侵攻された記憶はNATOへの警戒心とまちがいなく連動している。ウラジーミル・プーチンの発想に「大ロシア主義」あるいは「汎スラブ主義」への思いが見え隠れしている理由も、おそらくここにある。プーチンは西側の新自由主義に取って代る普遍的価値を宣布しようとしているのかもしれないのだ。とはいえ、それが「大ロシア主義」という大国主義的パターナリズム(父権主義)に結びつくとき――たとい歴史的経緯に配慮しても――粗暴な独善の誹りはまぬかれない。

 

そればかりではない。そうしたプーチンの言動をロシア正教会がバックアップしている。これは、ロシアにおける皇帝が、実質上、正教会の長であったことを彷彿させずにおかず、このことがウクライナ戦争を深い陰影で包み込んでいる。このたびの戦争をめぐる問題は、どうやら中世にまで、その根を届かせているようなのだ。

 

ロシアと西側諸国のあいだに引かれたスラッシュは、おもいのほか深い亀裂を成しているらしい。しかも、宗教と国家の結びつきは、ひとりロシアにみられるばかりではない。信仰の内面性を脱して宗教と国家が結びあう現象は、政教分離という啓蒙主義の政治スタンスの根本的な見直しを世界各地で迫っている。

 

☆

 

SNSやマスコミが伝える数々の戦争犯罪は、加害者のみならず、それを非難する者たちの道徳意識を批判的に捉え返す契機ともなる。人間の諸権利を踏みにじる陰惨な戦闘の情報は、これまで当然のことと思いこんできた諸権利の場に、暗くて深い穴が、ぽっかりと口を開いていることに気づかせずにはおかないからだ。

 

この穴は、新自由主義が跋扈したグローバリゼーションの年月に打ち捨てられて顧みられなかった啓蒙主義の置き土産の墓穴にほかならない。それはまた、核ミサイルをたばさむ近代にとっての他者を育んだ闇の領域でもある。

 

この暗くて深い穴を覗き込んでみること。今日の危機にさいして、わたしたちを見舞いつつある出来事を了解するためにまず為すべきことは、これを措いてほかにない。

 

闇を覗き込むとは、探照灯によって闇を掘削することであり、そのあげく思いもよらぬおぞましい光景を目の当たりにすることになるだろう。それはまた、暗い穴の縁であやうくバランスをとっている自分自身の体勢に揺さぶりをかけることでもあるにちがいない。だが、この危うさを受け容れることなく、現在の状況を了解することができるとは思われない。

 

穴の底にうずくまる闇に眼を凝らすことによってはじめて、目の前に立ちふさがる近代の他者を揺り動かす言動に近づきうるのではないかと思う。体制として実体化された思想に混乱を引き起こし、その混乱のなかから未曾有の何かを掴み出す作業こそ思考の名にあたいするということを肝に銘ずるべきだろう。それは独善の愚昧から脱却する道でもあるはずだ。

 

☆

 

蒙昧主義は警戒すべきだし、喧嘩両成敗などと間抜けたことをいうつもりもない。

 

ロシアのウクライナ侵攻は、国際関係における武力行使を禁じる国際法に違反しており、その意味で不当といえる。ウクライナの軍事行動は個別的自衛権の行使であって、国際法に照らして正当性をもつ。しかし、「国際法」に則って事柄を批判するのとは別に、紛争解決に武力行使を禁ずる「法の精神」を成り立たせたさまざまな力のせめぎ合う場へ向けて、すなわち、深い穴の底へと降ってゆくようにして、予断なく思考を推し進めてゆく作業が必要なのだ。この作業は人間という存在が抱える闇の領域へと踏み込むことにほかなるまい。

 

漱石は、人間の不条理性を「底なき三角形」(「人生」1896)に譬えたが、「意識」と呼ばれる三角形の尖端から、潜在意識あるいは無意識へと開かれた不在の底辺へと下降してゆく思考に、戦争を押しとどめる即効性があるとは、とうてい思われない。しかし、いまこのときにあって、戦争が指し示す近代の奈落へと思考を差し向けることは、戦争ののちの世界へと思いを馳せることでありうるはずだ。ヨーロッパ近代の啓蒙主義が掲げた普遍性それ自体をあらためて普遍化する道筋として――近代が掲げた「普遍」概念を、文化的多様性を含み込むかたちで踏み込んで普遍化する道筋として――奈落くだりは避けてとおることのできない試練なのだ。それが啓蒙主義なるものをアップデイトする手立てでもあることはいうまでもない。

 

2022年4月28日

NEW BOOKS 新着情報杉 並


4/28 新着図書

【図書館員の注目本】

 

『日本の絵本:100年100人100冊』
大正から平成にかけて出版された絵本を時系列順に紹介。
絵本のあらすじや表現技法に加え、
時代や作家にまつわるエピソードも交えて、
日本の絵本の歴史を紐解きます。
こどもと侮らず、等身大の彼らに
真摯に向き合う作家たちの姿勢が伝わります。

 

『スタシス・エイドリゲヴィチウス:イメージ―記憶の表象』
リトアニア出身のポーランドを代表するアーティスト、
スタシス・エイドリゲヴィチウス氏の作品
777点からなる展覧会の記録。
子どもの頃の記憶を辿り、平面・立体・演劇など、
材質や手法を問わず、「いま」感じることと
織り交ぜた表現を精力的に続けています。

 

『観察眼:湘南のイラストレーターが描くいきものと自然
(藤沢市アートスペース企画展:2019年度:1)
』
自然を題材に制作する湘南ゆかりのイラストレーター、
向田智也・横山寛多の両氏に焦点を当てた展覧会。
依頼による制作と個人的な創作、デジタルとアナログ
といった制作過程の違いはあれど、2人の作品からは、
自然を見つめる鋭くも温かな眼差しが感じられます。

 

『イメージする力、生きる力:ある日の「美術と教育」の出来事』
図工・美術という授業科目は技術や知識を養うためだけの、
芸術の中に留まるものではなく、自己表現や他者との関わり方、
社会での生き方にも繋がる教育であることを訴える企画展です。
芸術に触れる/触れさせることの意味について、
あらためて考えてみてはいかがですか?

 

『Surface and Custom』
資生堂ギャラリー100周年を記念し開催された、
ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダのデュオと、
5名のアーティストたちによる展覧会。
「美」を打ち出し、提供してきた資生堂の100周年という表層から、
アート・マーケティングやナラティブ、現代美術の未来を探ります。

 

 

ほか全25冊、ぜひご利用ください。

 

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2022年4月28日

NEWS 図書館からのお知らせ杉 並


杉並図書館員推薦図書コーナー 4月

杉並図書館員推薦図書コーナーを入れ替えました。

展示されている本は貸出可能です。

詳細は、DVD架横の杉並図書館員推薦図書コーナーをご覧下さい。

全8冊です。

 

〈女子美OG 花山かずみさんの著作〉

『どこどここけし』

 

〈女子美OG 小林由季さんの著作〉

『木の実とふねのものがたり』

 

〈女子美OG クボトモコさんの著作〉

『いちばんやさしい鳥刺しゅう』

 

『コップってなんだっけ?』

 

『世界の工場廃墟図鑑 : 環境問題と産業遺産 : フォトミュージアム』

 

『平成史全記録』

 

『ウィリアム・モリスのフラワー・パターン : ヴィクトリア&アルバート博物館コレクションを中心に』

 

『マンガでわかる大学生のためのレポート・論文術』

 

2022年4月25日

NEW BOOKS 新着情報杉 並


4/22 新着図書

【女子美OGの本】

 

『あさごはんのたね:おいしいまほうのたび』
農業の楽しさを絵本で子どもたちに伝える企画
「アグリバトンプロジェクト」で生まれた食育絵本です。
野菜の栽培を通じて、農業や食事の楽しさを学べます。
本文のQRコードからは、田畑の様子や、
農業体験が可能な農園の情報が確認できます。
作者は女子美卒業生の小林由季さんです。

 

 

【書評に取り上げられた本】

 

『寄生生物の果てしなき進化』
人類とともに発展を遂げてきた寄生生物の、
歴史や文化との関わりを人類学を交えて紐解きます。
パラサイト目線で語られる、ユニークな訳者あとがきも必読。
産経新聞(2022/3/6)に書評掲載あり。

 

 

【図書館員の注目本】

 

『ミュシャ装飾デザイン集:
『装飾資料集』『装飾人物集』『装飾図案集』増補改訂版
』
ミュシャの作品を象徴する、グラフィックな要素。
ただ忠実なだけではなく、繰り返しによるリズムや
平面的描写などによってモチーフを加工・装飾し、
「デザイン」という新たな様式へと昇華したミュシャの、
デザイン参考書3作より全作品を紹介しています。

 

『布のはなし』
リネンの服や雑貨、ライフスタイルの提案を行う
ブランド「LISETTE(リゼッタ)」の、
ディレクターとデザイナーを務める平真実さんが愛する、
布やプリントにまつわるおはなしを収録。
素材やシーンに合わせて楽しむ布の魅力が感じられる1冊です。

 

『要点で学ぶ、ロゴの法則150(Design rule index)』
日々さまざまな場所で見かける既存のロゴを、
定義・トレンド・歴史・文化・法律・制作プロセスなど、
多角的に解説しています。
デザインの意図や意味を知ると、
普段見過ごしがちなロゴという存在に、
多くの情報が詰まっていることに気がつきます。

 

 

ほか全25冊、ぜひご利用ください。

 

↑ 書名をクリックすると資料情報がご覧いただけます♪ ↑

 

https://lib.joshibi.ac.jp/opac/category/1/1

 

↑ カテゴリー検索画面で月ごとの新着リストがご覧いただけます♪↑

 

 

 

 

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※入構されない本学在籍学生、 研究生・科目等履修生 、教職員の皆さまは、引き続き郵送貸出サービスをご利用いただけます。
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図書資料の郵送貸出サービスについて

2022年4月22日

NEWS 図書館からのお知らせ杉 並


【新設】ザッシスタンド

 

 

杉並図書館に、「ザッシスタンド」が新設されました。

 

雑誌架に並ぶ和・洋の各雑誌タイトルの中から、

 

テーマや分類に従い、雑誌をセレクション。

 

スタッフのリコメンド・新着雑誌・女子美関連・旬なテーマなどなどを、

 

随時入れ替えながら、こちらに展示していきます!

 

是非お手にとってご覧ください。

 

*分類・見出しカードの一部

 


【ザッシスタンド覚書】

 

「紙」とは「空間」である。

とあるデザイナーが、疑義を隠さず語ったこの啓示を変奏し、

「紙片」とは「交通の場所」である、と夢見てみる。

横断し、通り過ぎ、ときに立ち止まるといった

コミュニケーションの形を、わたしたちはきっと、

紙の上で、行ってきたのではないか。

こと雑誌といえば、その足取りはいっそう軽く、

眼さえ留めないこともある。

一瞥して立ち去るもよし。

ふと足を止めてみてもいい。

自由にご覧ください。

ここは、図書館スタッフがセレクションした雑誌を

展覧する見せ物台。

見出しによる分類は、

芸術に関わる諸領域への導線を示し、

美術やデザイン、その諸分野、

あるいは垣根を超えて諸科学にまで、

ときに連絡するでしょう。

 

 

 

2022年4月14日
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