『雨やどり』は、奈良絵本と呼ばれる挿絵入りで書写されたお伽草子の一つで、本書は江戸時代前期の書写にかかる。
奈良絵本は、『伊勢物語』『大和物語』など中古の王朝物語にはじまり、中世から近世にかけ成立した武家や庶民を主人公とする新規な短編の絵入り物語=お伽草子を題材に、室町後期から江戸中期にかけて流行し、現在、約400編ほどが現存する。
本書は、いわゆる取り替え子譚を軸としたお伽草子で、取り替えられたわが子が皇位に昇り、一門が繁栄するといった王朝物語の流れをくむ作品で、物語の内容にふさわしく、本文は名のある能書家の手になるものと推測されるほどの流麗な筆致を見せ、計20図にわたる挿絵も人物や背景に金銀濃彩による伝統的な大和絵の手法を用いた奈良絵本ならではの特徴が見て取れる。とりわけ本書は、一部にシミ、虫食い、墨汚れ、破れなどが認められるが、いずれも丁寧に補修され、保存状態は良好であり、紺地金泥下絵入の表紙(見返しは金地布目紙)、一部に金泥による草花図を描く本文料紙、さらに金箔、金泥を用いた豪華な挿絵には傷みが見られず、室町文化の息吹を伝える優品として貴重な一点である。