「ブルン文庫」について
図書館長 松島道也
このたび本学の図書館では473冊からなる貴重な本のコレクション(文庫)を購入しましたので、これについて紹介いたしましょう。この文庫はかつて有名なドイツの考古学者ハインリヒ・フォン・ブルン Heinrich von Brunn (1822~1894)が所蔵していた図書の一部です。ブルンはボン大学講師からローマ考古学研究所幹事、ついでミュンヘン大学教授として活躍した19世紀後半におけるヨーロッパで最大の考古学者です。彼は、古代美術史の基礎を築いたヴィンケルマン以来のギリシア美術研究の第1人者といわれ、その門下からはフルトヴェングラーやヴェルフリン等多くのすぐれた美術史家が輩出しております。
この文庫の内容は、主として、19世紀後半の欧米の学術雑誌に発表された多数の学者の研究論文の抜刷約2400タイトルからなり、それが473冊の本に合冊製本されています。その論文のほとんどは、論文の執筆者からブルン教授に贈られたもので、多くの論文の表紙には「ブルン教授に捧ぐ」という言葉とともに著者の自筆署名が添えられています。
論文のテーマはギリシア・ローマの美術、考古学ばかりでなく、文学、詩学、言語学、演劇、歴史、哲学、競技、医学、神話学、軍事、政治、経済、風俗などあらゆる文化領域にわたっており、さらにクレタ、ミュケナイ、メソポタミア、プトレマイオス朝エジプト、初期キリスト教時代など、広く各地方、各時代の問題を扱ったものも少なくありません。
この文庫はもとロックフェラー財団の寄贈によりアメリカのヴァサー・カレッジ図書館が「ブルン考古学文庫 (BmnnArchaeologicalCollection)」として所蔵していたもので、今回これが売りに出されたのです。
本学の図書館はこれまでも美術史関係の分野では比較的良い文献がそろっているので、他の大学の研究者たちからもかなり高く評価されてきましたが、新たにこの「ブルン文庫」の購入によって、本学図書館の蔵書の内容はまたいちだんと充実することになりました。
それに、すこし古い伝統のある大学図書館ならば、このような図書のコレクションをいくつも持っているのが普通ですが本学の図書館も「ブルン文庫」の収蔵によって、やっとひとなみの大学図書館の仲間入りができることになりました。この意味でも、私にとっては非常にうれしいことです。なお、この文庫の購入に当っては、文部省にお願いして、435万円もの多額の補助金をいただきました。本当に感謝しております。いうまでもなく、大学とは教育と研究の機関です。そのため大学図書館は、一方では学生の教育・学習に直接役立つ参考書や教養書などを充分にそろえ、他方では専門的研究に必要な高度の学術的文献を収集し、特定の分野におけるわが国の学問的水準を諸外国のそれにおくれぬように保つという大事な責任をもっております。
本学の図書館は、この両方面において、これからもできるだけ調和のとれた図書の収集に努めていくつもりです。「山椒は小粒でもぴりりと辛い」といいますが、私どもの図書館も、規模こそ小さいけれど、その内容(資料もサービスも)は絶対に他にひけをとらないものにしたいといつも思っている次第です。
(『女子美』 No.64 1981昭和56年1月27日発行より転載)
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