卒制展によせて
芸術学部長 松島道也
3月の卒業制作展は、秋の女子美祭の華やいだ展覧会とは違って、静かな落着きとはりつめた緊張感をもっている。出品作品がたとえ傑作ではなくとも、それらの背後に学生諸君のたいへんな苦心と努力とが隠されていて、それが見るものの心にじかに伝わってくるからであろう。私もあの雰囲気が好きだ。
美術大学は芸術を志すものに最も基礎的共通的な技術を教えることを目差しているはずだが、こうして会場に並ぶ作品を見ると、そのひとつひとつがすでに全く違った個性的な作風を具えているのが面白い。この4年間に学生諸君がそれだけ自己に目覚めてきたことのあらわれであろう。
卒業式の当日、春の日ざしの暖い校門で、巣立っていく学生の姿を見送るのは楽しい。どうかこれらの諸君が卒業制作に取組んだときの真剣さを忘れることなく、これからの長い人生を歩いてくれるよう衷心から期待している。
(『女子美』 No.44 1976昭和51年4月27日発行より転載)
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