物語ソウル
No.028
中上の小説は重くて、というひとでも楽しめる異色作。盗賊団がソウルの闇を疾走する、痛快な物語。ストーリーとは別に、荒木のソウルの写真がちりばめられている。二大巨匠のコラボという贅沢な本。PARCOの遺産でもある。冒頭、繁華街のごたごたした狭い通りの描写が、凄い。ふだん長い描写などしない中上が、バルザックもかすむ筆力をみせつける。文章の喚起力か、レンズの描写力か。真っ向勝負を挑んでいるのだ。「コラボ」というより、「対決」かもしれない。むろん、荒木の写真もいい。が、文章の喚起するのは現実にとどまらない。
教養研究室 教授 | |
田桐 正彦 |