ラインズ : 線の文化史
No.009
「線」は、しばしば、人間社会の進歩を示すのに用いられてきた。直線的に未来へと向かう進歩史観の表象だ。これに対して、インゴールドは「散歩にでかける」(パウル・クレー)線を重視する。目的への到達よりも、むしろ、線が引かれてゆく過程を大切にするのである。著者にいわせると、点というのは、線の到達するところではない。それは線が滞留する場であり、渦巻きのような形象で示される。こうして点は、そこからあらためて線がスタートする中継点、あるいは、あらたな線が生み出される起源となる。つまり、ひとつの場となる。ドローイングにかかわる訓練や研究にたずさわるひとびとにとって必読の書というべきだろう。
女子美術大学 名誉教授 | |
北澤憲昭 |