展示期間: 2021年10月4日(月)~12月24日(金)
展示場所:杉並キャンパス2号館1階ロビー
本は文明の旗だ、その旗は当然美しくあらねばならない。(恩地孝四郎)
江戸期までの和装本に代わって、
いま、私たちが当たり前に目にしている洋装本は、
明治期の開国の波に乗って流入しました。
カナダ人パターソンによって
製本術がはじめて教授されたのは明治6年。
以後、いわば日本式洋装本として
技術的・精神的に進化を続けてきたことでしょう。
表紙は門構え、見返しは玄関までの通り路、
扉はそのまま玄関の意匠……と、
本の各部名称を「家」に喩えたのは恩地孝四郎でした。
読者はこの建造物の中へ、
あたかも挨拶を述べながら、厳かに入っていく。
そしてこの建造物は、長く画家の手によって設計されたものでした。
橋口五葉は夏目漱石の本を、小村雪岱は泉鏡花の本を、
意匠を凝らして手掛けましたが、彼らは挿絵画家でありました。
恩地孝四郎や竹久夢二もまた、画家として名を馳せながら
装丁の仕事で多くの功績を残します。
戦後、グラフィックデザイナーが装丁の仕事に現れますが、
生業としての装丁家の登場は、
一九七〇年代以降まで待たねばなりません。
それまでの長きを、あるいは現代においても、
この国では画家・美術家が、
「美しく」本を装ってきたという一面を持ちます。
「本は文明の旗だ」。
その意匠と精神のはためきの一端を、是非ともご覧ください。
2021年10月4日