こぼれ話

EPISODE こぼれ話相模原


返却図書コーナーの話

大学院 芸術文化専攻 青島

 

図書館のカウンターの横に、小型の移動書架がある。正式名称は「ブックトラック」というらしい。それはさておき、そこはその日に返却されて棚に戻る前の図書がプールされる場所なのだが、私はその返却図書コーナーを眺めるのが好きである。

 

毎回そこに立ち寄る大きな理由として、様々なジャンルの本が狭い所に凝縮されており、見るのが手軽かつ刺激的であるということが挙げられる。

 

普通図書館を見て回る場合、どうしても棚毎に時間も空間も区切られ、Aの棚を見てからBの棚へという風にゆくことになる。その上、ついつい自分が日頃から強く興味を持っているジャンルや、自分が専門とするジャンルの棚に吸い寄せられがちで、あまり行かない棚もできてしまうというのが実情だ。

 

対して返却図書のコーナーでは、比較的短い時間で、広いジャンルの本を目にすることができる。しかもそれらは自分以外の誰かが興味を持った、あるいは必要を感じて借りていった本であるため、ある程度内容に期待が持てる。

 

個人的な経験でいえば、最近の返却図書のコーナーではマルタン・モネスティエ『図説食人全書』(2001年、原書房)が、良くも悪くも印象的であった。このような、普段の生活の範囲ではまず出会わなかったであろう本に出会えるところが返却図書コーナーの楽しさの一つである。食人にまつわる図版が、絵だけでなく写真も多く掲載されている。普段はどのような本と一緒に並んでいるのだろうかと思い調べてみたところ、パンについての本や、箸についての本など、食文化に関する棚に並んでいた。なるほど確かに食人も一つの食文化といえるだろう。タイトルからもお分かり頂けるように万人にお薦めできる内容ではないが、興味を持たれてみた方は一読してみてもいいかもしれない。請求番号は383.8/Mo33である。

 

また、新着図書のコーナーも同様にジャンルが混在していておもしろい。こちらは返却図書と違い、毎日内容が変わるわけではないが、それでもたまに行くと新しい本が置かれているので回転はかなり速いと感じる。ご存知の方も多いかと思われるが、場所は階段下、エレベーター側のスペースである。

 

最近目にした新着図書では、ヨハンネス・ファブリキウス『錬金術の世界 新装版』(2016年、青土社)が興味深かった。本書はカール・ユングの『心理学と錬金術』を踏まえつつ、錬金術がどのような思想に基づいてどのような作業を行っていたのかが、豊富な図を使って紹介されている。図版を眺めるだけでもおもしろい本である。現在は通常の書架に移動されており、図像学の本などと共に並んでいる。請求番号は704.43/F11である。

 

返却図書および新着図書の近くには、軽く本に目を通すのに都合がいい椅子も用意されているので、興味を持てそうな背表紙があれば、試しに手に取ってみてはいかがだろうか。自分の専門分野に直接の関係はない場所から、思わぬひらめきがもたらされることはよくある。そういう時に出てきたアイデアのほうが、案外おもしろい結果に導いてくれたりするものだ。

 

 

 

 

 ※相模原図書館の新着図書コーナーは1階出入口付近に移動しました。

  (2017年1月現在)

 

 

 

 

2017年1月25日
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